山吹 

――頼光何処に居られます
 晴明は意識を飛ばし、あまねく頼光の魂を探す。
 彼の躯に心が入っていたと気付いて、晴明は苦悩した。
 頼光は私の言うがままに動く事に嫌気がさして、消えてしまったのであろうか。
 だが、敵の攻撃は熾烈を極め、じりじりと戦局は悪化していく。
――貴方が居られなければ、人は滅びまする
 晴明は眠っている時ですら戦っていたのだ。
 意識を下へ。深く。
 無念の魂の落ちていく中を更に深く。
 もうそこには何も無い。ただ常闇の続くばかり。
 これ以上は晴明と言えど帰って来られぬ、と諦めかけたその時。
 懐かしい、愛しい、恋しい気を感じ、晴明は震えた。
――まさかこんなところへ落とされて居ようとは
――それは貴方は心地よいかもしれませぬ
 抑え続けた恨み言が漏れた。
 まるで、間遠になった恋人を責めるような。
 気付き、晴明はもう一度震える。

――きっと戻る
 頼光は半身を惑わす灯篭を叩き、朱骸を弾く。
――汝の望む光はそれではない
 朦朧と浮かぶ己が半身を見やり、頼光は呟く。
――汝を照らす本当の月の光はあちらぞ
 松明を振り、半身に群がる朱骸を薙ぎ払い、船を粉砕する。
――あの晴明があれほど呼ぶのだ
 偽晴明の言葉が甦る。だが、悲しみは歓喜に打ち消されていた。
――本当の月の光は抱く事は出来ぬ。されど、それが亡者に等しい私を呼ぶのだ
 偽晴明だった者は、自分と同じように頼光の魂も霧散すると信じていたろう。その言葉が逆に頼光を留めたとは思わず。
 深殿の鏡の間に立つと、分かたれた魂魄が一つになる。
 頼光ははっきりと思い出す。
――そうとも、私は月の光を見たのだ。真はこの腕であの光に触れたかったのだ
 人の形をして人でないもの。
 それが晴明の中の、頼光に最も近いもの。
「それでこそ貴方です」
 奈落の淵よりも、晴明の声が明瞭になる。
 その声の方へ。
 迷いがなくなった頼光には、この声が偽者でない事が確信できた。
 深殿の番人をかわし、法陣を目指す。
――晴明……!

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