厚い氷を割って現れた巨大な百足には、見覚えがあった。
――確か、昔墓地のところでやっつけたあいつだ
 頼光は、鼻で笑った。
「ふふん、お前のような者には、この寒々しい景色が似合いだな」
 と、その嘲笑が消え入らぬうちに、再び氷が割れた。
「お前様! 助勢に参りましたぞ♥」
「おお、我が后よ♥」
――ええええええええええっ!
 頼光の顎は外れそうになっていた。
「ふははは天井は氷でも、我が住まいは溢れる愛でアツアツじゃ!」
 九蛇羅が頼光に見せ付けるように亜蛇羅と並び飛ぶ。
 それは波打ち際で戯れるカップルのよう。
 前回頼光と戦った時の怪我で入院中、看護師だった亜蛇羅と愛を育み、ゴールインした経緯を二匹は得々と語った。
「桜の中でずーーーーーーーーーーっと独り寝だったそうじゃのう」
 百足の夫婦が頼光を見下ろして笑う。
「えー、引きこもりなのー、この虫けらぁ。きもーい。ありえなーい」
 人形のように白い頼光の顔が、見る見る赤みを増していく。
「……この糞百足(ファッキンセンティピード)がぁ……!」
 頼光は某アメフト漫画の主将のような言葉を呟く。
「……あの、えーと、……封じ直しますんで、当方が呪を調える間、大変お手数ではございましょうが先生の方で何とか持たせて頂けますと非常にありがたいのですが、何卒ご了解頂けませんでしょうか」
 目深に被った頼光の兜の縁から、そのこめかみに浮き上がった血管を見てしまった晴明は、何時もに増して、卑屈なほど下手に出まくっている。
 頼光は振り向きもせず、即答した。
「うんにゃ、 ブ ッ 殺 す ! 」
――ええええええええええっ!
 今度のは晴明の顎が外れそうだった。
 頼光が飛翔した。
 詠唱を始めた晴明の声は、恐怖に震えていた。

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